顎関節症の治療の流れ(実際の症例より)

 最近は、顎関節症と咬合は関係がないという風潮があります。

 顎関節症は触らない方が良い、咬合調整をしてはいけないと言われています。

 しかし、それは学問を止める事だと思います。

 インレーやクラウンなどの被せものや詰め物を、先生方は日常的に沢山歯を削っています。しかし、顎関節症だけ削ってはいけないと言うのはいかがなものかと思います。

 削ると言っても、ほとんどが修復物、そして天然歯においてはほんのわずかです。

 かみ合わせの診断を行えば、顎関節症の治療は非常に単純な事が多いです。

 今回の症例は、当院顧問、稲葉繁先生が代表を務めるIPSGスタディーグループでの模様を通じて、ご紹介させていただきたいと思います。

【患者様の症状】

・口が大きく開くことができません。開ける時にはくの字に開きます。顎がカクッとなり、ひどくなると開かなくなると聞いてビクビクしています。口を開く時、意識せずに開けた事が記憶にない感じです。

・犬歯が下の歯の形に削れています。
主人の話、母の話を総合すると、子供の時から歯ぎしりがひどいようです。
一度、歯科でリテイナーを作りましたが、メンテナンスできず放置です。

・顔以外の気になるところは、腰痛が徐々にひどくなり、2週に一度以上、マッサージを行っております。

・偏頭痛があったこともありますが、この2年ぐらいはない気がします。

との事でした。

レントゲン写真です。

 顎関節のレントゲン写真の診断の目安として、関節の変形がないかどうか、また関節円板(関節部のクッション)に乗って正常に動いているかどうか、下顎頭と側頭骨の間に隙間があるかどうかをチェックします。

 患者様はひとつも修復物がなく、また歯周病もなく、大変綺麗な歯列をされています。
矯正治療の経験もありません。

 顎関節症の原因として、インレーやクラウンなどの修復物、被せものや詰め物が関与することがありますが、それは今回のケースにおいて当てはまらないようです。

 クリック音の検査は、ドップラー聴診器を用います。

 浅側頭動脈の血流を目安にそこから6ミリ前方に顎関節があります。

 左右共に、かなり関節が傷ついた様な雑音が聞こえました。

 雑音は、関節円板が傷ついている時に鳴ります。


 上下の口が開く量は、28ミリ。

 クローズドロック、顎がロックされている状態だと20ミリ前後の開口量なので、ギリギリ関節円板(関節部のクッション)に乗っているという状態です。

 患者様はご自分で開口制限をされており、思いっきり開けるのが怖いそうです。



 下顎の右側の親知らずはレントゲンを見ても確認できるように、真横に生えています。

 その隣の大臼歯が斜めに傾いていることが原因かもしれないと予想する必要もあります。

 これは、フェイスボウトランスファーという、歯科治療の際、診断と治療の基本になる作業です。
 回転したり、左右前後に動いたり、顎関節の動きは非常に複雑です。

 顎関節症の患者様はこのレベルまでしっかり診断する必要があります。

 模型を、咬合器というかみ合わせの機械に付着し、調整を行います。

 顎がリラックスしている位置と、実際噛んでいる位置にズレがないかどうか調べます。

 この模型診断はとても重要で、たくさんのことがわかります。

 今回、患者様の顎関節症の原因は、右側の親知らずが手前の大臼歯を押していたため、かみ合わせの角度が変わり、その部位が原因となり、バランスが取れていない事がわかりました。

 KaVo ARCUS DIGMA2による、顎機能運動の計測、治療前の状態、治療後の状態を比較します。

 患者様の状態によっては、スプリント治療(マウスピース)を行う場合もあります。

 関節円板が落ちている患者様に犬歯誘導型(前歯でバランスをとる)スプリントを製作すると、痛みを発症するため注意が必要です。

 スプリントは1ミリのプレートにレジンを一層盛り上げ、たわまないようにし、全体でかみ合うように調整します。

 そして、治療に入ります。

 ここで、28ミリの開口量だと咬合調整が難しいため、マニュピュレーション(患者様の筋肉の力を利用、誘導して顎を開く技術)を行いました。

関節円板に下頭をより密着させ、痛みなく開口できるようになりました。

 この時点で、28ミリから、46ミリまで、約2センチ開く事ができるようになりました。

 途中から患者様が、

「音が消えました!」

 とおっしゃっていました。(正確には少し雑音が残っていましたが、患者様の感覚はだいぶ違うようです。)

 咬合器で診断した場所と同じ部位を調整。

 歯に溝を切る、窩を少し深くすることで、関節円板を密着させました。

 明らかに治療前、後のデータが変わりました。

 術前、術後の開閉口では、約2センチほどの差ががあります。

 開閉運動において、顎の動きが全く変わりました。

 スムーズに関節結節を乗り越えている事がわかりますね。

 最後に。

 「開閉は非常にスムーズです。私が感じていた、顎の音が取れて、正直びっくりしています。
 雑音が少し残ってはいますが、私が今迄悩んでいた物とは全く違います。
 意識せず、口を開くことができたのは、記憶にないぐらい遠い昔です。
 気になっていた首の後ろ側の凝った感じもなぜか気になりません。
 顎の周り、首周りが温かい感覚があります。本当にありがとうございました。」

 と嬉しい感想をいただきました。

 治療後、一緒にお弁当を頂きました。

 わずかな咬合調整により、患者様の感覚は大きく変わり、顎の周りの筋肉の緊張が取れ、 沢山嬉しい感想をいただきました。

 このように、ほんのわずかなかみ合わせのズレに気付く事ができるのは、私達、歯科関係者です。

 生活習慣や、姿勢を気をつけていても、原因を取り除かなければ治らないものは治りません。

 このわずかな、かみ合わせのズレに気付くために、私達は何百時間、何千時間もの勉強を積み重ねているのですから、もっとその重要性に気付くべきだと思います。

 稲葉歯科医院では、しばらく顎関節症のご相談をお休みしていましたが、今後は積極的に取り組んで参りたいと思います。


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