口腔機能訓練機器「ラビリントレーナー」について

当院の嚥下(飲み込み)の訓練では、口腔機能訓練機器「ラビリントレーナー」を使用します。ここではラビリントレーナーの発案の経緯についてご紹介します。

嚥下訓練器具の使用と効果

以前、日本にしばらく滞在していたドイツの大学の歯学部教授から「日本の若い人には、犬歯が唇側転移している例を多く見かけるが、なぜなのか」という質問があり、かなり日本人の歯並びの悪さが気になっている様子でした。欧州では、八重歯は恐ろしい吸血鬼ドラキュラの牙と同様に見られ、あまり良い印象を受けないために、そのような質問が出たのではないかと思います。

ドイツでは乳幼児の顎の正しい発達のために、Dr. MullerによりNUKのニップル(哺乳瓶の乳首)が開発されました。これは、乳児の発達程度に合わせてニップルの大きさやミルクが出る穴の大きさを変えて使用できます。この乳首の持つ機能は、母親の乳頭に最も近似していて、乳児が正しい舌の使い方をするとミルクが出るように設計されています。

哺乳(おっぱいを飲む)行動と人工授乳

哺乳(おっぱいを飲む)行動と人工授乳正常な哺乳行動では、乳児は母親の乳頭を口にくわえ込み、乳首を舌先で強く口蓋に押し付け、数か所の乳管開口部から分泌される乳汁を飲み込みます。そのとき、唇に力を入れて吸引しながら下顎はわずかな前後運動をすると同時に、舌は口蓋へ押し付けられます。その結果、乳児は舌の正しい動きを学習し、口唇に力が付き、口蓋は広大し、歯が生えてくる十分なスペースを確保することができます

人工授乳においても、このような哺乳行動を行わなければ、正しい顎の発達は望めません。NUKは、この点を考慮して開発されたものです。つまりNUKのニップルでは、ミルクの出てくる穴が口蓋側にあり、舌で押し付けることによりミルクが口蓋鄒壁に沿って排出され、舌いっぱいに広がったあと飲み込むように設計されています。同時に咀しゃく筋(お口周りの筋肉)の発達を促し、お口の周りの機能は正常に発達してきます。

適正でないニップルの弊害適正でないニップルの弊害
通常市販されているニップルは乳首が長過ぎ、そのうえ大きな穴が先端にあり、しかも空気の取り入れ口まであるために、哺乳瓶を傾けただけで自然にミルクが流れ出してきます。こうしたニップルを用いた場合には、乳児の意思に関係なくミルクが出てくるため、乳児は何の努力をしなくても、ただ飲み込むだけでよくなります。

この場合、乳児は舌を細長く丸めてニップルを包み込み、自分の意思とは関係なしに出てくるミルクをストップさせるために舌を前方に押し付け、ピストン運動をするように前後に動かします。その結果、人生の出発点である乳児期に間違った舌の運動を学習してしまい、嚥下(飲み込み)運動の際、舌を口蓋鄒壁(こうがいすうへき)に押し付けることができず、前に押し出す癖を脳に刷り込んでしまいます

このような癖を持ったまま成長すると、不正な歯並び、それに伴う発音の異常、さらに顎関節症など、さまざまな症状が現れることが予想できます。

問題はアンバランスな筋肉の使い方

嚥下(飲み込み)運動の際、口蓋鄒壁に舌を押し付けた場合には舌が下顎側にあるため、下顎は後退し、顎がリラックスできる位置とほぼ一致するため、バランスを保つことができます。逆に舌の突出癖がある場合には、下顎は飲み込みの回数に応じて前後に動きます。通常、嚥下(飲み込み)は1日に600~2,000回といわれるので、この癖を持つ人は、正常者に比較して、下顎の前後運動に関与する筋の疲労が増すことが当然考えられます。

アンバランスな筋肉の使い方アンバランスな筋肉の使い方

舌は下顎の水先案内の役目をしており、舌を前に突き出せば、それに伴って下顎は自然に前に出て行き、舌を側方に出せば下顎も同じ方向に移動します。したがって舌の動く方向に下顎も移動します。舌を突出させる嚥下(飲み込み)運動は正常な筋肉の使い方ができず、頬筋、口輪筋、オトガイ筋というお口の周りの筋肉の緊張が強く現れてきます。

このようなアンバランスな筋肉の使い方の結果、臼歯は頬筋の緊張の影響で頬側から力を受け、歯並びは狭まり、前歯が広がり臼歯は内側に倒れてくる、Ωオメガ型歯列を形作ってしまいます。

舌圧の研究

舌圧の研究嚥下(飲み込み)をしたときの口腔周囲の筋肉の圧力に関しては、舌側からの圧力よりも強いといわれています。「正常咬合者と不正咬合者の上下前歯部における口腔筋圧の研究」という根津の報告によると、正常咬合者の場合、安静時には、上顎唇側圧平均7.2g/cm2、同舌側圧平均10.1g/cm2、下顎では唇側圧8.6g/cm2、舌側圧14.6g/cm2であり、上下とも舌側圧が唇側圧を上回っていました

さらにつばを飲み込むときでは、上顎唇側圧は60.0g/cm2、同舌側圧は123.2g/cm2で、舌の圧力が唇の圧力の2倍を示したという、興味ある結果を得ています。この報告から、舌の力と唇や頬の力の不均衡が起きることにより歯並びが悪くなることは、容易に納得できます。

大切なのは見かけだけでなく、根本を治すこと

舌圧の研究歯並びが悪い方は、嚥下(飲み込み)の際に上下の歯列の間に舌を突出させています。「サ行」「タ行」「ラ行」の発音の際にも舌の突出が見られ、明瞭な発音の違いを区別できない結果となります。このように歯並びが崩れた治療に際しては、矯正治療や被せ物の治療を行うことがしばしばあります。しかし、見かけだけの修正という現象のみを治しても、その症状を現した原因を除去しなければ、発音の異常やお口の周りの機能異常を治癒させることは不可能です。

「生命現象とは、内部環境を恒常に保つための努力である」といわれます。生きている人間の心身は動揺しつつ安定を保っているものであって、もし恒常が破れて安定状態に戻ることができないほどになったとき、それは病気となって現れます。そのため、人間の体全体を考えたとき、どの部分から見てもバランスがとれ、左右・前後に偏らないことが理想です。

ラビリントレーナーは、このような舌の癖、飲み込むときの癖を治すために開発されました。そして発案後、さまざまな効果があることを発見しました。

口腔機能訓練機器【ラビリントレーナー】

口腔機能訓練機器【ラビリントレーナー】ラビリントレーナーは、当院の顧問である元日本歯科大学高齢者歯科学教授、稲葉繁先生が発案した口腔機能訓練機器です。食事が飲み込みにくかったり、食事中にむせたりするなど、飲み込む機能が低下している方の訓練器具として、高齢者施設などでも広く利用されています。

現在、日本では年間およそ8,000人の方が誤嚥性肺炎、つまり食べ物による窒息で亡くなっているといわれています。そのほとんどが65歳以上の高齢者です。

●食事中にむせる、せきこむ
●食物を飲み込みにくい、食べるのに時間がかかる
●食べこぼしがある
●飲み込んだあとに声がかれる
●食物がのどにつまる感じがする、胸につかえる
●唾液(つば)が減ってきた、口が渇く
●唾液が多い、よだれが出る
●肺炎や気管支炎を繰り返す

上記のような症状がある方は、嚥下(飲み込み)機能の衰えが考えられます。ぜひ、意識してみてください。

ラビリントレーナーは、『ラビアル=唇』『リンガルは=舌』という言葉を合わせた造語ですが、唇と舌の動きを鍛える訓練器具として開発されました。舌と唇、そして嚥下(飲み込み)に必要な筋肉を鍛えることができるラビリントレーナーの発案には、40年もの間、研究を積み重ねてきた歴史があります。

ラビリントレーナーは、こうして生まれましたラビリントレーナー
今から40年以上前、ラビリントレーナーの発案者である稲葉繁先生が大学院生の頃、顎関節症の患者様に舌の圧痕や歯の形の圧痕、口蓋鄒壁の肥厚を見つけたことがすべての始まりでした。顎関節症と舌壁(舌の間違った使い方)には何か関連があるのではないかと考えたのです。

それから10年ほど経ち、今の筋機能療法学会の大野先生という方が連れてこられたアメリカのツィックフーズという医学療法士の講演を聴く機会がありました。お口周りの筋肉を鍛える筋機能療法「マイオファンクショナルセラピー」についての講演です。

講演後、ツィックフーズ先生に稲葉先生は「顎関節症と舌壁の関係についてどう思われますか?」と質問したそうです。しかし、答えは「わからない」だったそうです。当時はまだ、顎関節症と舌壁の関係については研究されていなかったのです。

その後、稲葉先生は舌の働き、さらには嚥下(飲み込み)機能について研究し、

●咀しゃく
●嚥下
●発音

ラビリントレーナーこれら3つの機能を育てるには、哺乳(おっぱいを飲む)行動が大きく影響していることに気がつきました。さらに研究を進めるうちに、間違った嚥下(飲み込み)機能をしているとさまざまな障害があることがわかりました。

こうして嚥下機能を向上させる必要性を感じ、ラビリントレーナーの発案に至ったのです。

それから、稲葉先生はある店で見つけた温度によって形が変形するシリコンを使って、自らの考えを形にしていきました。口の中に入れ、唾液(つば)を飲んでみたり口の周りの筋肉を動かしたりしてみて、最終的にできあがった形が、まさに今の『ラビリントレーナー』の原型です。そしてそれは、同時に舌の機能を40年間研究してきた集大成でもあります。

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